Afra/安

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燃え滓

这次是日文。《卡片战斗先导者》里的三和大志×櫂俊树。假设动画三期LinkJoker篇最后一场櫂赢了爱知的话会发生什么的平行世界三和櫂。好久没这么打鸡血了(「・ω・)「
也在P站投稿了:链接
短篇已完结。之后乖乖回去搞我的MLTD跑团伪实况视频了(*°∀°)=3


リンクジョーカー篇ラストファイトで櫂がアイチに勝ったら、というifの三和櫂のお話。四期以降はまだ見終わってないからその辺の設定とかは色々無視してる。

決断はなされた、責任は背負うべきものだ。櫂君の意志は頑なで、その上三和君を既婚者にしました。つまりそういうことです。見ていて気持ちのいい話ではありません。お察しください。

以上苦手な人は退避願います。

ではでは。

 

 

 

 

  「終わったな。」

 

  ダメージチェックを終えた右手が震え出す、勝ち負けなどよくあることだ、しかし、絶対負けたくないところで負けてしまったのは、これが初めてだ。力が抜け落ちる。ひどい目眩に襲われ、膝が地面につき、意識が崩れる瞬間、その人は確かに僕の方を見届けて、淡々と呟いた。

 

  「これでサヨナラだ、アイチ。」

 

  ああ、聴きたかったのは、言わせたかったのは、きっとこれじゃなかったはずだ。

 

 

燃え滓

 

 

  結婚をした。

  相手は同期入社の同僚、強がりで意地っ張りな、ちゃんとしている子。頭はいいのに、ちょっと不器用なところが愛おしいと思った。指摘したらきっと拗ねられるが、それもまたご愛嬌だ。

  付き合って、同棲して、互いを色々分かち合った半年後に、これからも共に歩いていこうと決めた。式を挙げる時、大学で同じクラスの連中や部活仲間がぞろぞろ来てくれてたけど、そういえば高校以前の知り合いは見てないのだと彼女ーー今は妻か、が訝しげだ。そういうもんだろと答えておいた。

  職場恋愛の成就を見届けた上司はご満悦だったらしく、新婚旅行の休みは簡単に取れた。せっかくだから海外行こうと妻が提案してきて、無闇に願い事を口にしない子だったから、これは乗るっきゃねと思った。

  旅行自体は順風満帆。旅行先でレンタルカーの頼み方が掴めなくて一悶着あったが、意外に高かった妻の英語力で事なきを得た。車で幾つかの街へ行って、自然風景や名所旧跡などを楽しみつつ、食べ歩きもしていた。

  その日は地元で有名とされるとあるレストランを求めてちょっと辺鄙な場所まできてしまったら、思いの外賑やかできれいな店と巡り合った。ずっと外国の飯ばっかで舌が疲れたのかな、趣旨に反しているとはいえ、日替わりメニューで英語の綴りの玉子焼きを見てたら、思わず注文してしまった。学生っぽいウエイターが注文を取って厨房へいった時やっと失敗に気付く。そりゃそうだろ、ここは日本じゃないぞ、そんな都合良く自分たちの舌に合う日本料理が出てくる訳ないだろ。これは話のネタになるだけのオチだな。のんびりお喋りして待ってると、彩りどりの皿が並べられ、食欲を誘う香りに腹が鳴る。よく見たら結構バラバラな料理を満遍なく注文した、万国展覧会かな?つうか食べきるかな。少しずつ摘まんでみたら、どれも申し分ない旨さだ。レパートリー広いな―、コック何人居るんだろ?そう思って一口大に頬張った玉子焼きもやはり美味いもので…どこか懐かしい味がした。

  首を傾げた。家でメシはいつもオレが作ってる、けどオレはこんな細やかな舌触りなんて作れない。母ちゃんの味かな?ちょっと味付けが違う気がするな、うちの玉子焼きはもっと甘かったはずだから。どうしても思い出せなくて、しかし気になって、せっかくの美味いメシなのに味がてんで分からなくなってしまった。とてつもなく惜しいことをした。食事が終わって夜も更け、今夜泊まる予定のホテルにチェックインした。荷物を整理している間も妙にずっと引っ掛かって、妻がシャワーを浴びにいっても、ベッドに腰掛けて一人悶々と思い詰める。水音だけが響く個室は中々寂しいものだ、もっと小さくて、無機質な部屋を思わせる。手がベッドの縁に当たった、無意識に何かを探してるみたいだった。何だろう?まあ、マグカップにぶつかってこぼさなかっただけマシか。

 

  そこでハタと気付いた。気付いてしまった。懐かしい味の正体を、今となっては何故そんなにすらすら並べられるか不思議なくらいに延々と続く食レポと一緒に。

 

  頭が真っ白になって、手足も震え出す。雷に打たれた気分だった。

 

  妻に一言断って、返事も聞かずに走りだした。エレベーターホールを出た時人とぶつかりそうになって、スマホをチラッと見る…まだ間に合う、まだ間に合う…!

 

  息を切らしながら思うことは。どうせなら、炎で焼いてくれだって良かったんだ。

 

  *

 

  黒輪が空を覆うその日、自分じゃあ役に立たないと知ってるから、その最終決戦の結果をただ遠い場所で待ちこがれていた。やがて黒輪が崩れ落ち、ビルの崩壊も止んでから、ジレて数人の男手を揃って一緒に中へ突入した。ビル内は空っぽで、屋上で見つけたのは倒れたアイチ一人だった。人一人が白昼堂々姿を眩ませるとも思わないし、恐らくどこかに少数人にしか知らせていない隠し通路でもあったんだろ。立凪タクト去りし今では知る由もない。

  唯一の手掛かりであるアイチが病院で寝込んでいる間、思いつく場所を探した。マンションのスペアキーの置き場所は知っている、実際フラリとどこかに消えるあいつにかわって戸締まりをしたことが幾度あった。けど、家主不在の時勝手に入るのはやはりはばかれた。これもまた、あてどのない人捜しにジレてなりふり構わずにはいられなかった。果たして鍵はいつものところにあった。謝罪を唱えて部屋に入ったら、不気味な静けさに足が竦んだ。元々物が少ない部屋だったから、侘しいのは相変わらずのはずなのに。カーテンは閉まっている。明かりを付けようとスイッチに手を伸ばせば、反応がないことに気付く。電源そのものを落としているようだった。胸騒ぎがひどくなった。ベッドに近づくと、綺麗に整ったシーツの上に、一組の札がちょこんと置かれていた。

  デッキだ。陽炎のデッキで、グレード0から3まで、順次に丁寧に並べられていた。デッキの一番上、カードの正面から見れば一番下に、ドラゴニック オーバーロード The Яebirthがあった。

 

  これは、つまり。…どういうことだ?

 

  確か本棚の中に不用なカードを収納している箱があるはず、そのことを思い出して、急ぎ確認した。リンクジョーカーのデッキも、鳴神のデッキも、公式戦では使っていないが、すでに組み終わって、自分とも何回かテストプレイをしたゴールデンパラディンのデッキも、その外シミュレーションの為に組んだデッキも、まだデッキに組み込まれていないカードも、全てそこで、山積みになっていた。

 

  指先が凍った。

 

  着信音が突然鳴りだした時、ようやく自分の呼吸が止まっていたことに気付く。手に力が上手く入らなくてスマホを取り落とした、思わず舌打ちをして、繋いだ通話の向こうに、ねーちゃんからアイチの目覚めを知らされる。

 

  伝わなくちゃならないことがあるとアイチは言った。頭を下げられ、しこたま謝られた。アイチの後悔と絶望に満ちた涙目を見て、らしい慰めが何一つ浮かべなかった。

 

  現実味が薄れる程激しい喪失感に、身も心も澱む。

 

  ああ

 

  知っていた。あのデッキを見た時から。

  オレは、既に知らされていたのだ。

 

  *

 

  「Excuseme, Sir. ...Are you OK?」

  「全然、オッケーじゃ、ねぇ…」

 

  夕方に見た大学生風のウェイターが私服に着替えて、心配そうにオレの顔を覗き込む。そう遠くないとはいえ、スタミナが無いのに走ってきた自分の正気を疑う。店仕舞い前には間に合った…コックは、明日に備えてコックは遅くまで残るはずだ。二階はたしか解放されていなかった、ひょっとしてここに住んでるんじゃないのか?とにかく、素晴らしい夕食を提供してくれたコックに感謝の気持ちを述べたいと言い張った。辿々しい英語でちゃんと伝わったか分からなかったが、こんな見苦しい嘘、伝わったとしても嘘っぱちにしか聞こえないはず、実際ウェイターの青年は顔を強張った。どうすんだよこれ、喧嘩になったら俺勝ち目ない、やっぱ裏門でも捜して待ち伏せするべきだったか…?

 

  「Whathappened?」

 

  暖簾の向こうから声がした。息を呑み、ウェイターの後ろに隠れて、聴覚だけ研ぎ澄ます。短いフレーズだったからか、日本語じゃないのに、その音を、トーンを、すぐに聞き分けた。間違いなどあるものか、これはーー

 

  暖簾を捲る細長い腕がぎこちなく止まり、一対の翡翠がオレを射抜く。僅かに瞳を細め、オレのうわごとのような呼び声を遮るように、彼は、櫂は、こう言うのだ。

 

  「ーー何の用だ」

 

  *

 

  学校は捜した、ちゃんと捜して、何もなかったから諦めた。けど週末明けて学校にいったら、何故か櫂が転校することになっていた。そんな都合良くことが運ぶわけねぇだろ!まさか届け一通で鵜呑みにしてんじゃないんだろうな?!学校は一体何やってたんだ!担任教師に凄んだら、櫂本人が提出した書類と、その保護者直々の申し込みがあったのだと答えられた。

  「いつ?」それが真っ先に浮かんだ疑問だった。リバースファイターの件で櫂がいつ帰国になるかずっと測っていたオレが櫂のその後の登校日を把握してないなんてありえないと思ったから…埒が明かない。ならせめて転校先でもと頼んだら、しばらく休学するとかで、担任にも教えてはくれなかったそうだ。

  保護者と言えば叔父だろ、こうなったら家に押し込むしかあるまい。そこで思い出す、櫂の叔父がどこに住んでるかなんて知らない。櫂の昔の家はとっくに売られて、今は別の家族が住んでいる、そっちもダメだ。諦めずフーファイターの本部に行って、雀ヶ森レンと新城テツに訪ねた。雀ヶ森レンの顔色がおかしい、目も据わっている、だが空気を読む余裕などなかった。調べ済みなのだと新城テツが教えてくれた、櫂の叔父一家がもう引っ越していたことも。そもそも、名義上では保護者などをやっているが、高校に上がって一人暮らしを始めた後、付き合いを途絶えてきたのはむしろ櫂の方だった。有用な情報はあまりない上、いきなり押し掛けてきた大男に警戒すら抱いたのだという。自分も似たようなことをしているから言葉もない。

  いっそ失踪として警察に届くのか?しかし世間から見て、櫂は失踪などしておらずただの転校で、転校先を家族以外の人間に告げていなかったのも納得の行く範疇に過ぎない。そもそも保護者から見ても失踪じゃないんだ、警察が失踪として受理する訳ないだろ。裏ファイトをなんとか立て直したジュンも市内の人捜しに手伝ってくれている、今まで収穫はない。これは、もう別の街にいったんだって結論付けていいんじゃないのか?…だから一体どこへ?

 

  戻って櫂の大家に訪ねた。どうやらマンションは今月きりだって伝えられたらしい、契約書より大幅に前倒ししたから違約金もしっかり受け取っている。来月になったら部屋の中のものは全て処分して構わないとサインも貰ってある。

  それは、ダメだ。

  とりあえずカードだけ箱ごと回収した。櫂に返さなきゃと思ったから、ヴァンガードなしの櫂トシキなぞとんだ法螺話だと思ってたから…デッキなんて、またカードを買い直して組み直せば良かったのに、それでも…

  ーーある日あいつはひどくジレた顔で不機嫌にオレを訪ね、デッキをどこへやったと問い詰められる。そういう可能性もあるかもしれないと思うようになってしまう。

 

  詰んだ。そうなんだと受け入れるまでどれだけ時間を掛かったか、正直良く憶えていない。気付いた時、オレはもう別の街で大学生をやっていて、デッキは本当に片手間にしか触らなくなって、カードキャピタルで知り合った面々とも連絡を断った。

 

  不思議とつまらないと思うことはなかった。それの感受器官が常時オフされているように、気にならなくなった。

  きっと、どんな熾烈な思いも、十年経てば波風立たぬ水面のように落ち着く。そういうもんだろ。少なくともオレはそうだった。櫂も、そうなんじゃないのか。

 

  *

 

  「ーー何の用だ」

 

  何の茶番だ。さすがにムカッと来た。喉に詰まった澱みなど、この高揚にあいまって、怒りが容易くぶち壊してくれた。

 

  「どういうことだ、何しらばっくれてんだ?櫂」

  「…見た目が東洋人で、日本語も混ざってるから一応聞いてみたんだが…貴様こそ何なんだ。」

  「俺を知らないって言い張るのか?面白くない冗談はやめようぜ、櫂!」

 

  眉間に皺を寄せ、やや訝しげに、そいつは宣う。

  「だから、さっきから連呼している『カイ』とは一体何なんだ。誰かの名前か?」

 

  少し動転してしまったんだろうか。間を開けすぎたようだ。ウェイターは気まずげに声を上げ、もう上がっていいのかと聞いているらしい。

 

  『最近物騒だから車で送ってくれと頼んできたのはそっちだぞ。』

  『すいません!もうタクシー拾って帰りまーすっ。なんか邪魔しちゃ悪いみたいなんで…またの機会にでも載せてください!お疲れっした、店長また明日ー!』

  『おい!』

 

  自称櫂じゃないやつの怒鳴り聲もどこ吹く風に、ウェイターはそそくさに退場した。迷惑な客を押し付けられて苛立ってるんだろうか、舌打ちして、眉間の皺をよせたままこちらに振り向くーー正直、かなり怖ぇ。

 

  「…見ての通り、ウチはもう閉店だ。何もないようならーー」

  「いやあるって!めちゃくちゃあるって!何さり気なく追っ払おうとすんだよ!」

  怖じ気付いてる場合じゃなかった。芝居に付き合うつもりは毛頭ないが、意地で言い張られても埒が明かないから、ここは一応合わせとくべきなのか?ああ、なんだか顔まで痺れてきた、鼓動が激しすぎて、落ち着かない。

  「いや、呼び方は今更どうでもいい」

  ーーよくない

  「お前が櫂じゃない、っていうなら…」

  言葉が続かない、どう切り抜く?どうやって…だってそうだろ、目の前だぞ!なんでオレがお前を目の前にそんなしょうもない嘘つかなきゃならないんだ!

 

  皺が少しだけ取れたのか、そいつはオレの方に近づいてきた。店内が暗すぎて今まで分からなかったが、近くで見ると、とても柔らかく、そして濁っていた翡翠がすぐそこにあった。カウンター越しに手が伸びてくるーーかわす気などない。その指は、難なくオレの頬に辿り着く。

 

  「何を泣いている」

  「…え?」

 

  手を伸びて確認しようとする。触れ合う前にそいつは手を引っ込め、「坐って待っていろ」と一言残しまた暖簾の向こうへ。程なくして、湯気立つマグカップを二つ持って戻ってくる。内の一つを目の前に置かれたら、良い香りをした熱いミルクティーだった。

  …あまりにも懐かしいシチュエーションに目が眩んだ。違うのは程良く冷たいタオルまで差し出してくれたことだ。そういうのはいつもオレに勝手にやらせてるから。礼も言い忘れて見上げたら、こちらを柔らかく見つめたままの翡翠が律儀に視線を逸らす。なんでそうなるんだ!叫びたいのに喉が詰まる。芯が冷えて、けれどミルクティ―はとても暖かくて、旨くて、やはり知っていた味だ。

 

  「落ち着いたか。」

  しばらくの問いに無言で頷く。

  「ならもう帰れ。」

  「…なんでそうなるんだよっ…」

 

  櫂もマグカップを一口啜り、静かに答える。

 

  「そういうもんだろ。」

 

  *

 

  櫂について立凪ビルまで来た。家に帰るつもりはないらしい。櫂の指紋で大体のところは通るようになっていたみたいだけど、スタッフを捕まえてオレの指紋も入力してもらった。櫂の付き添いで同じリバースファイターということですぐにやってくれた。櫂は後ろで待ってくれている。あいつはこういうのに疎いから、自分でやっとくに限る。控え室を用意してくれるらしいが、櫂と同室でいいと断った。おかしい目で見られたようだが気にしない。櫂も気にしてなかった。

  櫂にあてがわれた個室は櫂のマンションより広かった。台所もシャワー室も一通り揃っており、装飾も間取りも櫂のマンションよりよっぽど賑やかに見えるが、馴染めていなかった。ベッドへ横になろうとする櫂を捕まって体温を測ってみる、顔を覗き込んで、二の腕も触ってみた。体が一瞬強張ったがされるがままだ。

  「メシ、ちゃんと食ってんのか?」

  ふいと視線を逸らされて口を噤む。冷蔵庫を確認したら、飲み物とレトルトしかなかった。

  「ちょっと出掛けてくる。帰ったらメシな。それまでちゃんと休め。」

  そう言って部屋を出る。扉が閉まるまで、櫂はベッドのそばで立ち竦んだままだった。

 

  カードキャピタルへ宣戦布告をしといた。その足でスーパーへ行って食材などを揃える。ビルに戻ったら、案の定櫂は寝たままだった。オムライスを作って起こしにいったら、大人しくついてきて一緒に食べてくれた。食器洗いは良いからお前はデッキを見とけと言ったら、ちょっと睨まれたけど渋々引き下がってくれた。コーヒーを淹れてやる。いつもとポジションチェンジだ。

  櫂は、全霊をカードに入れている。数少ないリラックス手段で趣味だった料理に手を回さないほどのめり込んでる。自ら望んで追い詰めて、追い詰められる。この現状を壊そうとはしない。オレはそのために来た訳じゃない。

 

  「なあ、櫂。アイチにも、雀ヶ森レンにも勝てたとしたら、その先はどうするつもりなんだ?」

 

  カードを捲る指が止まり、こっちを見ないで、櫂は言う。

  「世界を一周する。…もっと強いファイターを探す。」

 

  ーーウソだ。

  が乗っかることにした。

 

  「じゃあ、今からでも出掛けてみねえ?」

  バイクの鍵をチラつかせて、笑ってみる。

 

  櫂はそんなオレを見つめてーーデッキを仕舞い、内ポケットに放り込む。

  「いいだろ。」

 

  *

 

  要件だけ、簡潔に述べろ。

 

  「ーーオレは、ダチと会いに来た。十年前消息を眩ましたダチに。」

 

  それが「カイ」ってやつか。十年も音信不通だったんだろう?それでもダチと呼ぶのか。

 

  「ーーひっどい言われようだな…まあ、オレはそのつもりだし、向こうもそうであったらいいんだって今でも思うぜ。」

 

  物好きか。

 

  「笑うなよ…

   櫂は…責任、を感じてんのかな。それともケジメのつもりだったのか。命より大事なものを、多分だけど、手放した。

   …オレは、櫂がそんな罪深いとは到底思えねえけど、今更櫂の決断に異論を唱えるつもりもねえよ。

   ただ、こんな大事なことを決める前に、一言ぐらい相談とかをさぁ…してくれんじゃねぇかなって、勝手に思って…」

 

  …お前がそう思わなかっただけで、実際罪深いんじゃないのか?

 

  「ははっ、食いつくのそっち?…相談なんて何様なつもりだって言われんのかと思ったけど…」

 

  それこそ、部外者のオレがとやかく言えたものじゃないな。

 

  「ん、ん、そうだよな。

   …本当はオレ、相談云々は端っから期待してなかったよ、一度決めた事は曲げないってのが櫂で…正直、相談されても、オレじゃあきっと何も変えられない。櫂の決めたことを、オレにはいつも正しく見えるから。ただ…

   ただオレは、世界中を騙せたとしても、オレだけは櫂のやろうとしてることを見抜けるってずっと思ってた。色々下準備をしてる間見つけて、何すんのって聞き出して、手伝うなり阻むなり、そういうのがオレの役目だってずっと思ってた。」

 

  ……

 

  「ーー出来てなかったんだ。オレが何も気づけないまま、櫂はいっちまった。

   これってどうよ?最悪じゃん?オレ居る意味ねえじゃん?」

 

  ーーそれは…

 

  「一方的にもう帰って来ないってわっかりづらいメッセージ残してさ…オレ、今でもそれを箱ごと持ってるぜ?いつか返さなきゃって思ってるから。」

 

  ーー…!!

 

  ーーああ、やはりお前はそれで引っ掛かる。

  柔らかく濁っていた翡翠から炎が燃え盛る刹那を目にして、オレは満足げに笑う。

 

  恨めしい表情を拝めるんじゃないのかって思った、そうじゃなくとも怒りとか。けど違った、そこにいるのはオレが幾百度も見慣れていた熱意ーー幾百度もオレを照らし、火を付けてくれたもの。

  叫びたくなった。この期に及んでまだお前は、そう純粋でいられるというのか!オレが今どれほど非道なことを口にしたのか、お前は本当に理解したのか!

 

  ーー知っている。オレと真っ直ぐ対峙する瞳が訴えている。

 

  「解りづらいならーーそれはきっと、おまえにしか受け取れないメッセージだったはずだ。

   おまえの手に渡っていたのなら、それはきっと、もうおまえにしか扱えないものだ。

   ーー自分を卑下することはない。おまえはよくやっていた。」

 

  ああ、力が抜ける。櫂に負けることはよくある、勝てたことの方が珍しいくらいだ。それでもオレは、十年も後回しに、完膚なきまでに負かされてしまった。

  それでも諦めの悪いオレは問い直す。

  「どれ一つ出来ていなかっただろう。なんでそういえるんだ?」

 

  「ああ。

   ーーきっと、これからも上手くやっていける。」

  瞳を瞑って、穏やかにそうかえされてしまう。

  時計をチェックして、「こんな時間か。最近物騒だ、それを飲み終わったら車で送ろう。」

 

  翡翠は、既に元通りだ。

 

  *

 

  ヘルメットを渡して、落ちるぜって警告を入れたら、納得してしがみついてきてくれた。とても落ち着いた心地に、これで心配ないと一人肯く。特にリクエストはないし、そもそも言い出しっぺはオレだから、海に連れていくことにした。夕方頃に到着して、「絶景だろ?」って言ったら、櫂は頷き返した。

 

  「足よかずっと速いだろ?人探しにも役立つぜ。」

  「…ついてくるつもりか?」

  「いいだろ?」

  「…」

 

  背をこちらに向けたまま、櫂は黙り込む。

  これではダメなのか。ならどうすればいい?

 

  「櫂」

  「…なんだ。」

  「オレにどうして欲しい?」

  「…おまえはどうしたいんだ?」

  「ん…手始めに、裏ファイト場かな?あそこは人数があって統率もなってるし、いざって時に邪魔されないようまず潰すべきなんじゃないかって思って。」

  「……おまえのしたいようにすればいい。」

  「じゃ、勝手にやらせてもらうぜ。」

  「…いつ行くつもりだ?」

  「…早い方がいいってこと?明日行くぜ。」

  「……そうか。」

 

  櫂は背を向けたまんまだ。

  明日勝てたら喜んでくれるだろうか?

  櫂の喜ぶ顔が見たい。

  そんなんでよろこんだりしないことを、心の底で知っておきながら。

 

  *

 

  慣れた所作で鞄を助手席に置く、後ろを座れってことらしい。打ちのめされたオレは黙々とただ従う。車が発進する、時間はどんどん無くなっていく。

 

  「オレは邪魔になれないのに、なんで櫂はオレに黙って出て行ったんだと思う?」

  「それじゃあ罰になれないからなんじゃないのか。」

  バックミラ―越しに見た口元は笑みをうっすら浮かべながらそういうことを言うのが信じられない。冗談のつもりだったのか?目の前に花火が炸裂する気分だ、とてもあつくて、痛いのにーー

 

  「…また、また来てもいいか?」

  「どんだけ暇人だ。」

  オレの悪足掻きなんぞものともしないように、彼は軽く笑うだけだった。

 

  ホテルまで送ってもらった。オレが車を出たら、ホールで待ってくれているらしい妻は心配そうに迎えにきた。何が起こったのかよく理解していなかったようだけど、正直に言うとオレもどう説明すればいいのかが解らなかった。電話もラインもよく見れば無視していた。異国で一人取り残される気分を味わわせたのかもしれない。それは、とてもいけないことだ。

 

  「こんばんわ。」

  オレがそうしている間、助手席側の窓を下ろして、あいつは妻に話しかける。自分はさっきのレストランの店長なのだと自己紹介までする。

  「店でオレをチラと見かけて、消息不明の親友ととても似ていたから確認しにきたようです。少し長話しもしていたので、帰りが遅くなってしまいました。どうか許してやってください。」

 

  敬語をすらすら並べるその口から、ダチしか言えなかったオレを、親友と呼ぶ。

 

  「ここへは新婚旅行をしにきたのだろう。良い旅を。」

 

  眩そうに、翡翠は細める。

  終ぞ名乗ることのなかったオレの耳を、その音が、トーンが、撃ち抜く。

 

  「三和と一緒に、幸せになって欲しい。」

 

  *

 

  心に決めたことがある。

  三和が裏ファイト場へ行っている間、荷物を整えて、書類も作った。全て終わったら、珍しくちょっと眠りたいと思ってしまう。三和をリバースした後もそうだった、もう長い間ただそうしたいってだけの理由で眠りに付いたことはなかったのに。

  ベッドへ横になる。何時間経ったか、起きたら、ベッド脇に座り込んでいる人影を見た。

 

  「…何を泣いている?」

 

  驚いた。信じられなくて手で触れてみたけど、やはりそれは涙だった。三和の手にはオレが書いたばかりの転校届けが握り締められていて、既にしわくちゃだ。

 

  「オレも、一緒についていく。」

 

  何を悟ったのか、三和は諦めの悪い声で訴える。ごまかしたら、きっと自棄になられるだけ、だからオレは、本心を言う。

 

  「おまえも置いていくことにした。」

  「何でそうなるんだよっ!」

 

  勢い良く振り向く三和はオレを見て言葉をなくす。

 

  「そういうもんだろ。」

 

  *

 

  旅行計画を変更してもう一度レストランまで行った。締まった店のドアで、「SALE」の看板が掲げられている。下の電話番号に掛けてみたら、地元の不動産屋で、屋敷の持ち主へ繋いではくれなかった。相も変わらず行動力の強いやつで笑えてくる。目の前がまた滲む。

 

  ああ、知っていた。

 

  ーー知っていた。

 

 

  - The End-

 

 

入れる場所がなかったけど、立凪ビルの隠し通路もマスターキーも、二人で一緒に見つけ出した。探し辛くて、英語の通じる「転校先」も二人考えて決めていた。

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